もともと彼とは、「先生と生徒」という関係でしたが、いまでは兄弟に近いような存在に感じています
南アジア部 宮坂 和憲

JICAに入構してすぐの頃は、仕事における物差しは「ジョン」という一人の少年でした。途上国に出張して、担当するプロジェクトの村の農家の方と会ったときにも、やはり彼のことを考えていました。ジョンだったらこういう状況でどんな風に考えるだろうか、どんな感情を持つだろうか、どうしたら喜んでくれるのだろうか……彼と接してきたからこそ、担当する国の人々の暮らしが少しでもいい方向に向かうように、正面から向き合って仕事をしたいと思うようになったのだと思います。

ジョンと初めて出会ったのは、僕が大学生の頃ガーナに行ったときのことでした。彼は、ボランティアの教師として僕が教えていた村の中学校の生徒のなかで、もっとも優秀でした。けれど、他の子どもたちと同様に、中学校を卒業後、どのような道があるのかを知るすべが少なく、勉強するモチベーションを維持できずにいました。そこで僕は、村に図書館をつくるとともに、子どもたちに将来をイメージしてもらうヒントになればと、社会で活躍している村出身の人を招き講演をしてもらう試みを始めたんです。その活動を一番近くで支えてくれた彼は、勉強に対する意識を変えていったようでした。

完成した図書館の前で。2013年9月撮影。左から、活動を支援してくれたカカオ専門商社(株)立花商店の生田氏、ジョン、ジョン父、筆者。

翌年、再びガーナを訪れたとき、ジョンと再会しました。ちょうど高校入試の結果発表の時期で、彼の成績は優秀な高校への進学も可能なものでした。ところが、偶然会ったジョンの父親から、「ジョンは進学させられない」と。大学に通う彼の姉の学費で家計は限界だと言うのです。ジョンは村でもっとも賢く、彼自身も進学したいという強い想いを持っているにもかかわらず……僕は、そんな状況を見て、何とかできないかと考えました。そこで、彼の父親の農園のカカオ豆からチョコレートを作り、日本の百貨店で販売して、その利益をジョンの奨学金にしたんです。僕がJICAに入構した後もこのプロジェクトは上智大学の学生を中心に引き継がれ、昨年にはそのサポートによってジョンは大学にも入学することができました。

もともと彼とは「先生と生徒」という関係でしたが、いまでは兄弟に近いような存在に感じています。僕が勝手にそう思っているだけかもしれませんが、僕の結婚式にガーナからビデオメッセージを贈ってくれたりもして(笑)。今年の2月には、ジョンをサポートするために継続的に開催している「カカオ豆からチョコレートを作るワークショップ」をJICA東京で行いました。日本の小学生とJICAのガーナ人研修員が参加したその会の最後に、ジョンとスカイプを繋いだんです。そこで彼は、これまでの感謝の気持ちを述べてくれて。出会ったころと比べてずいぶん成長したジョンの姿をみることができたこと、そしてそんな彼からの感謝の言葉が本当に嬉しかったです。

JICAに入構してすぐの頃は、僕にとっての仕事の物差しはジョンでした。途上国に出張して、担当するプロジェクトの村の農家さんと会ったときにも、やはり彼のことを考えていました。ジョンだったらこういう状況でどんな風に考えるだろうか、どんな感情を持つだろうか、どうしたら喜んでくれるのだろうか……彼と接してきたからこそ、担当する国の人々の暮らしが、少しでもいい方向に向かうよう真剣に考えながら仕事をしたいと強く思うようになったのだと思います。

この9月からガーナに赴任することが決まりました。現地事務所で働くことになれば、ガーナ政府の高官とも折衝する立場になります。これまでガーナのフィールドで活動してきた経験があるうえで、そういった役割を担うことができるのは、非常に幸せなことだと感じています。国づくりに関わるガーナの人たちがどういう想いを持っているのか、ガーナに滞在していた学生の頃に僕が感じていた想いをぶつけたらどういうリアクションが返ってくるのか……とても楽しみですし、ジョンに再会できる日も待ち遠しいです。

「誰かを想う気持ち」は、時間も国境も越える。 なんとかしなきゃ!プロジェクトでは、連載企画として著名人とJICA職員それぞれが語る「誰かを想う気持ち」をご紹介しています。
J-WAVE 81.3FMの番組「JICA MUSIC ANTHOLOGY」(毎週金曜日21:00-21:10)と連動し、ゲストに音楽をとおして「誰かを想う気持ち」を語っていただいている記事はこちら↓

JICA MUSIC ANTHOLOGY

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