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世界が見えるトピックス 特集

漫画の力で「自分ごと」に 取材漫画家 井上きみどりさん

現在もはびこる性差別や暴力と闘い、強い意志を持って警察官になった女性たちが、アフガニスタンにいます。そんな彼女たちの姿を、取材漫画家の井上きみどりさんが漫画で描きました。今回の「世界が見えるトピックス」は、井上さんに、現在公開中の作品「アフガニスタンで警察官になった女性たち」の制作エピソードやアフガニスタンの女性たちに馳せた思いについて語っていただきました。

 

漫画「アフガニスタンで警察官になった女性たち」はこちら▼
http://nantokashinakya.jp/member_reports/51_kimidori_Afghanistan.php

 

 

―今回、「アフガニスタンで警察官になった女性たち」を描いてみての感想を教えてください。

とにかく「読者にどう伝えるか」に四苦八苦しました。下書きに入るまでが長かったですし、それから2回書き直しをしたんです。今回のご依頼をいただいた時点で私は、アフガニスタンについて、専門家に比べれば限りなく乏しい知識しか持っていませんでした。担当者の方から参考資料をいただいたり、現地でのエピソードを伺って初めて、現地の女性たちが直面している悲惨な現実を詳しく知ることになったわけです。そうした現状を伝えようというときに、安全で物質的にも恵まれている日本人に向けて描こうとしたら、「可哀想」な女性たちという非常にステレオタイプな表現になってしまったんです。
―なるほど。
けれども、アフガニスタンの現場で活動されているJICAの方にお話を伺うと、そうではないんだと。同情を集めたいわけではなくて、そうした大変な状況のなかでも頑張っている彼女たちを応援してほしいんだ、とおっしゃられたんです。どういう風に描けば、読者の方に「可哀想だね」「大変だね」といった他人事からもう一歩踏み込んで応援したくなっていただけるのか。すごく考えさせられましたし、物書きとしても非常に勉強になりました。
―実際に、アフガニスタンの女性たちが直面している現状について取材をすすめるなかで、井上さんご自身は同じ女性としてどのようにお感じになりましたか?
正直に申し上げると、取材直後の感想は、私自身や私の娘、あるいは近所の女の子たちが、みんな日本に生まれて良かったなというものでした……。けれど、描いているうちにやはり、それで終わってしまう人にはなりたくないなと思って。アフガニスタンの女性たちにどうやったら思いを馳せられるのだろうと考えました。いまだに答えは出ていないのですが、一つ言えるのは、きっと日本でも、かつて高くそびえ立っていたジェンダーの壁を、昔の女性たちが乗り越えてきてくれたんだろうなということ。そういう先人たちがいた歴史を経て、私たちはいまの日本を生きています。ですから、きっとアフガニスタンの女性たちも、時間はかかるかもしれないけれど、乗り越えることができるのではないかと期待しています。そうしたときに、やはり当事者が内側から現状を変えるのには限界があって、外からの力が必要だと思うんです。
―外からの力が。
私がそう思うのは、仙台で震災を体験し、外部の方々の支援によって助けられたからです。年月が経つごとに、内側だけではどうにもならない、より大きな問題が存在することを、私だけではなくおそらく東北の皆が感じていると思います。被災体験から、社会の問題を打破していくには内外の力が必要であると身をもって知った気がします。さらに、その問題について伝えることができるのは、内側を知っている「外の人」なんだな、ということも。今回色々とお話を伺ったJICAの国際協力専門員の方も、アフガニスタンの女性たちにとってそういう存在なのだと思います。「アフガニスタンで警察官になった女性たち」は、私の思いというよりも、実際に彼女たちに寄り添って活動していらっしゃる専門員の思いをできる限り忠実に描けるように努力しました。

 

JICA本部での取材時の様子

取材後何度もやりとりし、関係者の想いを形にしてくださいました

 

―そういう方たちの思いに触れることで、私たちも自分ごとにできるわけですもんね。
そうですね。どんなに遠く離れた国で、どれだけ宗教や文化が違っていても、日本と重なる部分を探す視点が大切なんだと思います。私自身もそういう視点を持てるように、アフガニスタンの女性たちを日本の女性たちに重ね合わせて考えてみました。やはり自分ごととして感じてほしいという気持ちが強かったです。
―作品のなかでも書かれていましたが、「彼女たちから学べることがある」わけですもんね。
そうですよね。それに尽きると思います。
―アフガニスタンの女性たちのお話もそうですが、近年、ジェンダーの問題にたいする注目が高まっています。井上さんご自身がジェンダーについて感じることはありますか?
私は、個人的にLGBTQの当事者と仲良くしていることもあって、数年前から当事者的にそういった活動に加わっています。彼ら彼女らと一緒にいると、「ジェンダーってなに?」という感じで。そこには、「男だから……」「女だから……」なんて存在しないボーダーレスな世界があります。また、私は米軍基地の近所で育ったこともあって、肌の色や国籍で境界を築く習慣もありません。だから、どの国であっても、ボーダーレスな社会ができるといいなという思いを持っています。
―この漫画によって、日本とアフガニスタンの距離が少しでも近くなるといいなと思いました。とくに今回、漫画という媒体ですから、若い方にとってもとっつきやすいかもしれませんね。
そうですよね。なんプロでも、国際協力について若年層に情報を発信しているわけですから、そういう部分での難しさは感じていらっしゃるかと思います。関心がない方にどう関心を持ってもらえるか。非常に苦労するところですよね。漫画の場合は、うっかり読んでしまって(笑)、「あ、こういうテーマだったんだ」と思わせることができるかもしれないので、どういったきっかけであれ、とりあえず手にとってもらえるといいなと願っています。
―まさに、私たちも「とりあえず」とか「たまたま」を作るところから、興味を持ってもらうことが必要なのかなと考えています。
いまのお話に関連するところで忘れられない仕事があります。震災の漫画を「MORE」(集英社)と「SPUR」(集英社)という女性ファッション誌に描かせていただいたんです。「SPUR」では16Pを使って、福島のことを。それはもう、読者としてはうっかり読んでしまったというレベルですよね。非常に嬉しい経験でした。

 

 

―ファッションに興味のある人たちに届いたわけですもんね。
その企画は、多くの方になんとか福島に関心を持ってもらいたいという編集者の熱意で実現したんです。私一人の力ではそんな場は開拓できないので、そういった場がもっと増えてくれたら嬉しいです。
―井上さんは今後、創作活動によってどのようなことを伝えていきたいか教えていただけますか。
さきほど、「自分には、ジェンダーを含め、年齢、国籍についてボーダレスの感覚がある」とお話ししました。ただ、それとは矛盾するかもしれませんが、私は、これからの創作活動でも「女性とこども」の視点を大切にしていきたいと思っています。実際、いま描いている介護や福島の問題、医療についての漫画も、そうした視点で描いています。どうして私がそう思うのかは自分自身にとっても謎なのですが、きっとジェンダー視点での「女性とこども」という意味ではなく、私自身の母親としての経験が何か作用しているような気がします。
―それでは最後に、井上さんがお考えになる漫画の力について教えてください。
私自身は漫画を読む習慣がなく育ったので、特別に漫画好きではなく、絵を描くよりも取材していた方が楽しいという珍しい漫画家なのですが、「なぜ漫画で伝えるのか?」と聞かれることは多くあります。私が考える文章や写真と、漫画の違いは、
 
・人の表情を描けるので、感情が伝わりやすい
・デフォルメできるので、悲惨な状況も少し柔らかく伝えることができる
 
という二点です。感情が伝わってこそ、当事者の状況を自分ごとに感じてもらえると思いますし、デフォルメの効用は計り知れないと感じています。震災漫画を描いた時も、津波の状況を描かなければなりませんでしたが、単行本をお読みになった被災者から「今まで震災関連のニュース映像は避けてきたけれど、この本を読んで心の中を整理することができた」と涙を流されながら感想を頂き(私の能力ではなく、受け手の感性が素晴らしかったのでしょうが)無用なショックを与えずに読んでもらえるのが漫画の力の一つなのだということを知りました。そういう意味でも、今回の漫画をとおして、読者の方になにかを感じていただけたら嬉しいです。
―ありがとうございました。

 

 

 

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