• なんプロとは?
  • 世界が見えるトピックス
  • なんプロサポーターの活動
  • 学生レポーター発信中!
  • アクションから選ぶ
  • メンバー団体情報
  • メルマガ登録

世界が見えるトピックス 特集

先人が苦難を乗り越え切り開いてきた歴史の上に現在がある 後編  ~JICA 中南米部 吉田憲~

今年、2018年は日本人のブラジル移住110周年という記念の年です。今回の世界が見えるトピックスでは、「移民」という観点から日本とブラジルの関係に注目。両国は、長い時間をかけてどのような歴史を育んできたのか、それが現在、どのような影響をもたらしているのか……。私たちにとって一見遠い国のように感じられるブラジルですが、当然、無関係ではありえません。JICA 中南米部 吉田憲さんにお話をお伺いしました。

【前編はこちら】(http://nantokashinakya.jp/sekatopix/article0198/

 

 

―これまで伺ってきた移住事業について、JICAはどのような役割を果たしてきたのでしょうか?

これまで日本から中南米に約35万人が移住されたうちで、JICAが送り出しをお手伝いしたのはその5分の1程度の約7万人です。現在では、国際協力機構法に規定されているとおり、移民の方々が、各国において安定した生活を送ることと、生活の定着への支援を行なっています。具体的には大きく三つの柱があって、人材育成、高齢者福祉と調査・知識普及です。人材育成については、さまざまな分野がありますけれど、とくに日本語教育が求められています。1世から2世、3世と世代を下っていくと、移民の方々が自分たちで日本語を教えのが難しいところもあるので、そこに我々が、日系社会ボランティアとして日本語学校に日本語教師を送ったり、あるいは日系研修ということで、日本に招いて日本語教授法の研修を行っています。
―人材育成として、日本語教育を。
そして、高齢者福祉は邦人保護の観点からも必要とされています。JICAでは、日系移民の方々が入所する老人ホームや日系病院に、介護福祉士や日本語で介護ができるボランティアを派遣したり、日本的な介護の手法を現地の方々に伝えたり、という活動も実施しています。
調査・知識普及については、横浜に「海外移住資料館」を開館しております。ここを拠点として移住者の生活の様子を展示したり、さまざまな調査を行ったりしています。最近では修学旅行の学生さん達もたくさん来ていただいています。
さらに、現在、積極的に取り組むべき課題として挙げられるのが、日本と日系人のネットワーク、絆を太くすることです。たとえば、民間企業がJICAが行っている「中小企業海外展開支援」を使って海外展開を図ったりすることも支援しています。私の所属する中南米部では、中小企業がこうした海外展開をおこなってもらうための関心をもってもらうために、日本全国を周り、中南米経済の状況を説明する会を開いています。中南米全体としての経済規模は、ASEAN経済圏の約2倍。非常に大きなマーケットです。日本の企業が現地に進出すれば、そこで、日本語ができる会計士や弁護士、通訳や、現地の状況に詳しい人材が必要となってきます。そこで、現地の日系人、日系社会、日系商工会議所とのネットワーク形成につながればと考えています。
―現地の日系人と日本企業をつないでいるわけですね。
そうですね。あるいは、JICAの青年海外協力隊事務局のボランティア制度のなかに、自治体連携という仕組みがあります。結果的に国が主導することになりましたが、戦前、富山県や長野県、鳥取県といった自治体が、中南米に土地を購入して県民を移住させようという構想がありました。徐々に名前は消えつつありますが、そうした地域にはいまでも、ブラジル信濃村といった名称の名残があります。そこには当然、県人がたくさん暮らしているので、出身県とのつながりが深いわけです。そこで、JICAと自治体が協定を結んで、自治体の教員を派遣するという事業も行っています。また、大学連携もあります。たとえば、アルゼンチンの日系社会では、兵庫県人会が組織されています。それで、アルゼンチンから野球を教えてほしいという要請があったときに、兵庫県立大学とJICAが協定を結んで、兵庫県立大学の学生さんが、現地で野球を教えると同時に夜は兵庫県人会の方々と故郷を語り合うといった動きにつながっています。

―JICAとして様々な活動を展開されているのですね。そして、吉田さんご自身も、実際に海外で日系の方々と触れ合う機会もあるわけですよね。

私が初めてブラジルに行ったのは1997年のことでした。ブラジルの田舎にある日本語学校に、JICAが日本語教師を派遣していて、そこを訪れたのです。そのときに、生徒のおじいさん世代の方々と交わした会話をいまでも覚えています。彼らは、当時20代だったJICAの女性ボランティアよりも言葉や漢字を知っているし読み書きも達者でした。それで、「最近のJICAボランティアはなっていない。読み書きもきちんとできないし、敬語だって使えない。こんなことで、孫たちは日本語を習得できるのか」と、私と彼女に不満をぶつけてきたのです。
―ええ。
私はそのときに、いやいや、言葉なんだから、あなたたち自身が生活のなかで教えなければいけないでしょ、と強く反論しました。彼女は、日本語教師として一生懸命やっていたけれど、現実問題として、週に数時間程度の授業では限界があります。それ以外の時間には、子どもたちは彼らと一緒に暮らしているわけですから、「あなたがお孫さんに日本語で話しかけたり教えたりしているんですか?」と。けれども、それにたいして、彼らから返された言葉を聞いて、私は自分の発言を後悔しました……。
彼らは、その通りだと。まさに、おじいさん世代の悲しみはそこにありました。彼らは、自分たちが移民してきて、1日25時間働かなければ生活できないほどの暮らしぶりだったわけですよね。その間、子どもたちは、現地で話されているポルトガル語で育っていった。それで、気が付いたときには、親子のコミュニケーションが同じ言語ではできなくなっていたのです。

 

 

―ああ……。
彼らは、だからこそ自分の孫にはなんとか日本語を教えたい。だけど、結局、子どもたちにとっての親、彼らにとっての子どもは日本語ができないから、家庭では難しい部分もある。こういったことは南米ではよくある話ですが、とくに上の世代にしたら辛いし寂しいことでしょう。そういった事情も含めて、もちろんJICAボランティアだけが日本語を教えるわけではありませんが、我々としても日本語教育についてなんとかしなければと思っています。そして、だからこそ、先ほどお話ししたネットワーク、絆を深くすることが必要なわけです。JICAのボランティアに限らず、いろいろな人が行ったり来たりするなかで、日本語や日本文化に関心をもってもらう、学べるような形が実現できるといいなと願っています。

 

 

サンパウロの東洋人街の露店
今も日系人の手によって、日本文化の発信が続けられている

―私たちが日系移民の方々のためにできることはどんなことがあるのでしょうか?

私はいつも、日系移民や日系社会ということよりも「多様性」という観点で捉えたいと思うんです。日本に住んでいると、ブラジル人や韓国人、中国人は多いですし、最近ではカンボジアやベトナム、ネパール等から来た人々が、実際にコンビニやスーパーで働いています。そこで、我々が知っておかなければならないのは、我々が毎日食べているご飯の大半がよその国から輸入されているということです。つまり、多様な人々への関心がない、付き合うことをしないで、食べ物や服だけは、よその国からもらうということは、現実的にはできないわけですね。当然、多様な人々への関心を持つことが大切です。
―たしかにそうですね。そして、彼ら彼女らから学べることもきっと多いですよね。
私がブラジルに住んでみてもっとも驚いたのは、彼ら彼女らのおおらかさなんですね。非常に心が広いというか度量が大きい。べつに彼らは多様性を意識して生活しているわけではないんですけど、移民社会として自然とそうなっているわけです。いま日本では働き方改革などが叫ばれていますが、ひょっとしたら、日本人の生活や人生にとって、まずブラジル人と付き合う、ペルー人と付き合うということが、考え方や生き方に変化をもたらすきっかけになるかもしれません。
―なるほど。
もちろん、言語や文化、風習の違いがあるから、なかなか難しい部分もあります。けれども、自分自身が日本にいて、コンビニや居酒屋に行って外国の方がいたときに、どういう態度で接することができるのか、あるいは、どうしてこの方たちが日本にいるのかを考えてもらうことが、多様な社会を育むきっかけになるのかなと思います。国際協力自体も本来そうあるべきかもしれません。つまり、よその国に行って、ある種の技術を移転することが国際協力だという時代は終わってしまって、世界には多様な考え方があるということを日本に持ち帰って日本人に伝えたり、あるいは逆に、日本の考え方を現地の人々に伝えるという意味で、コミュニケーションの手段として、あるいは互いの価値観の理解の手段として、国際協力を捉えることもできるような気がします。最近では、中南米各地の日系協会が、よさこいソーランや、オタク、コスプレといった日本の文化を発信する基地として機能するようにもなってきています。そういったことも含めて、これからの日系社会連携は、日系の方々のための事業というより、非日系の方々も含めて、より多くの方々に日本に関心を持っていただけるような、同時に多様な社会の在り方を日本社会に導入する意味合いを持つことが、期待される方向性なのかもしれません。

 

 

 

 

関連トピックス